絵を描くことが好き。
ものをつくることが好き。
自分の頭の中にあるものを、何かの形にすることが好き。
けれど、その「好き」を思い切り表現できる場所は、意外と多くありません。
群馬県太田市にある就労継続支援B型「アトリエ・オーサムシップ」は、アートやデザイン、ものづくりを中心に活動する就労支援事業所です。
施設を訪れると、壁や棚にはまったく雰囲気の異なる作品が並んでいます。
細かな線を何重にも重ねた動物画。
独特の世界観で描かれたイラスト。
アクセサリーや木工、小物などのハンドメイド作品。
そこにあるのは、「同じものを、同じようにつくる」という空間ではありません。
一人ひとり違う個性を持った利用者さんが、それぞれの「好き」や「得意」を持ち寄る場所です。
オーサムシップが掲げている理念の一つが、
「個性を尊重し、共航する」
という言葉。
施設名にある「SHIP=船」のように、異なる個性を持った人たちが同じ船に乗り、それぞれの力を生かしながら一緒に進んでいく。
今回は、目標工賃達成指導員のライナーさんに、オーサムシップが大切にしている理念や、「就労支援×アート」という形で施設を運営する理由について伺いました。

目次
- 「信念を持って柔軟に生きる」オーサムシップが大切にする3つの理念
- 福祉とデザインが出会って生まれた場所
- 「個性の塊」が集まるからこそ、同じことを求めない
- アートを通して、自分の存在が誰かに届く
- 展示や販売は、“社会とつながる場所”を増やすため
- 絵だけじゃない。それぞれの「つくりたい」を大切にする
- 「本当に好き」がある人にとって、思い切り挑戦できる場所
「信念を持って柔軟に生きる」オーサムシップが大切にする3つの理念
内藤:
まず、オーサムシップさんが大切にしている理念について教えてください。
ライナーさん:
大きく3つあります。
一つ目が、
「信念を持って柔軟に生きる」
ということです。
今は本当に変化の大きい時代なので、その変化に合わせて柔軟に生きていくことは必要だと思っています。
ただ、何でも周りに合わせればいいということではなくて、自分たちが大切にしている信念までは曲げない。
そういう意味を込めています。
二つ目が、
「個性を尊重し、共航する」
です。
ここには本当に、個性の塊のような子たちがいっぱい集まってきます。
その個性をなくすんじゃなくて、大切にしたい。
オーサムシップという名前なので、一つの船にみんなで乗って、一緒に航海していくようなイメージですね。
そして三つ目が、
「創造する喜びを航路とする」
です。
ここはアートとデザインを中心にした施設なので、日々の活動には必ず「何かを創造する」ということがあります。
その創造すること自体をみんなで楽しみながら、それを生きていく道につなげていけたらと思っています。
「個性を尊重し、同じ船に乗って、一緒に航海していく。」
オーサムシップでは、「できることを揃える」のではなく、一人ひとり違うことを前提にしています。
好きなものも違う。
得意な表現も違う。
つくりたいものも違う。
その違いを直すのではなく、そのまま船に乗せて一緒に進んでいく。
「就労支援×アート」を考えるうえで、まず土台にあるのがこの考え方です。
福祉とデザインが出会って生まれた場所
オーサムシップには、少し特徴的な成り立ちがあります。
母体となっているのは、20年以上デザインの仕事を続けてきた会社です。
内藤:
もともとはデザイン会社だったところから、どうして就労支援施設を立ち上げることになったんですか?
ライナーさん:
最初は、うちが施設を運営するという話ではなかったんですよ。
今サービス管理責任者をしている、福祉業界に長くいた方と出会って、その方から「アート系の福祉施設を立ち上げたい」という相談を受けたんです。
うちはデザイン会社なので、最初は、
「じゃあホームページをつくったり、パンフレットをつくったりする部分を手伝いましょうか」
くらいの話だったんです。
でも、話を聞いていくと、本当にアートやデザインに特化した施設をつくりたいということが分かってきて。
それなら、ずっとデザインをやってきた自分たちが一緒につくったら、何か面白い施設ができるんじゃないかと。
そこから話が盛り上がって、一気に立ち上げまで進んでいきました。
福祉の知識だけから生まれた施設でもない。
デザイン会社が新規事業として福祉に参入しただけでもない。

「福祉」と「デザイン」。
それぞれの経験を持った人たちが出会ったことで、現在のオーサムシップが生まれました。
「個性の塊」が集まるからこそ、同じことを求めない
オーサムシップを利用する方の多くは、もともと絵や創作が好きな方です。
昔から絵を描き続けてきた人。
独学で作品をつくってきた人。
「好きだけど、仕事にしたことはない」という人。
スタート地点もさまざまです。
内藤:
もともとアートができる方が入ってくるケースが多いんですか?
ライナーさん:
基本的には、もともと絵を描くことが得意だったり、ずっと描いてきたりした方が多いですね。
ただ、「ちょっと好き」というところから、ここに来ていろいろ学んで、それを自分の道にしていきたいという子もいます。
ありがたいことに、今は本当に才能のある子たちも集まってきてくれています。
僕らも一緒に作品を見ながら、必要なときにはアドバイスします。
でも、みんなを同じ絵にしようということではないです。
その子が持っているものを大切にしながら、一緒により良い作品をつくっていくという感覚ですね。
オーサムシップの施設内を見ても、作品に共通する「型」はありません。
リアルな動物を描く人もいれば、細かな模様を描き込む人もいる。
漫画やキャラクターが好きな人もいる。
ものづくりを得意とする人もいます。
それは、「個性を尊重する」という理念が、言葉だけではなく日々の活動にも表れているからなのかもしれません。
アートを通して、自分の存在が誰かに届く
作品をつくることは、それだけでも一つの表現です。
しかし、オーサムシップでは「つくること」だけではなく、その作品が人に届くことも大切にしています。
ライナーさん:
今まで絵を描いてきても、人に見てもらって評価してもらう機会って、あまりなかった子が多いと思うんですよ。
それが、今はスターバックスさんなどで作品を展示させていただいて、全く知らない方たちにも見てもらえる。
以前、展示したときにはメッセージカードもたくさんいただきました。
そういう言葉を本人たちが見ると、やっぱり活力になりますよね。
「また次もいい作品をつくろう」
という気持ちにつながっていると思います。

誰かが作品を見る。
「好きです」と言ってくれる。
感想を書いてくれる。
その反応が作者のもとへ戻ってくる。
就労支援において、「仕事ができたかどうか」だけでは測れないものがあります。
自分のつくったものが誰かに届いた。
誰かが自分の作品を見て、何かを感じてくれた。
その経験もまた、自信や次の一歩につながっていきます。
展示や販売は、“社会とつながる場所”を増やすため
オーサムシップでは、作品を施設内だけに置いておくのではなく、さまざまな場所へ届けています。
スターバックスでの展示。
地域のお店での展示。
企業へのアートレンタル。


そして、太田強戸パーキングエリアでの作品・グッズ販売。

こうした活動を、「作品を売るための施策」だけで捉えると、オーサムシップが目指しているものとは少し違います。
まず作品を外へ出す。
知らない人に見てもらう。
作品をきっかけに、その作者の存在を知ってもらう。
そこからファンが生まれる。
内藤:
作品の価値を高めていくために、意識されていることはありますか?
ライナーさん:
今いる子たちは、言うなればまだ「金の卵」なんです。
名前を知られているわけではない。
だから、まずは知ってもらうことが必要だと思っています。
知ってもらって、ファンをつくる。
ファンが増えてきたら、その子の作品の価値も自然と上がっていくと思うんです。
だから今は、販売することよりも、まずたくさんの人に作品を見てもらう活動を大切にしています。
「まず知ってもらう。そして、その人の作品を好きになってくれる人を増やしていく。」
アートサブスクも、そのための手段の一つです。
作品を企業や店舗へ貸し出し、普段ならオーサムシップを知らなかった人の目にも触れる場所を増やしていく。
作品を外へ届けることそのものが、利用者さんと社会との接点になっています。
絵だけじゃない。それぞれの「つくりたい」を大切にする

施設内を見渡すと、絵画以外にもさまざまな作品があります。
キーホルダー。
アクセサリー。
編み物。
木工品。
オリジナルグッズ。
太田強戸パーキングエリアの販売スペースにも、こうしたさまざまな作品が並んでいます。

オーサムシップにおける「アート」は、絵画だけを意味するものではありません。
何かを考える。
手を動かす。
自分なりの形にする。
そこにある「創造すること」そのものを大切にしています。
その考え方は、理念の一つである
「創造する喜びを航路とする」
にもつながっています。
全員が同じ作品をつくる必要はない。
全員が同じ場所を目指す必要もない。
自分に合った方法で何かをつくり、それを社会へ届けていく。
その経験を積み重ねていくことが、一人ひとりの「これから」につながっていきます。
「本当に好き」がある人にとって、思い切り挑戦できる場所
最後に、オーサムシップの利用を考えている方へ、ライナーさんからメッセージをいただきました。
内藤:
オーサムシップに興味を持っている方や、利用するか迷っている方へ伝えたいことはありますか?
ライナーさん:
B型の就労支援事業所というと、内職のような作業をするところも多いと思います。
そういう中で、
「アートが得意」
「アートをやっていきたい」
という方にとっては、うちはすごく合う場所だと思います。
ただ、逆に言えば、中途半端な思いだと少ししんどく感じるかもしれません。
ここでは、本当にアートやものづくりに集中しますから。
でも、
「本当に絵が好き」
「ものをつくることが好き」
という気持ちがある方なら、すごくいい場所なんじゃないかなと思います。
就労支援だからといって、全員が同じ作業をする必要はありません。
人によって、得意なことも違えば、心が動くものも違います。
だったら、その「好き」を消すのではなく、生かせる場所をつくる。
一人ひとりの個性を尊重しながら、創造することを楽しみ、作品を通じて少しずつ社会とつながっていく。
そして、同じ船に乗った仲間と、それぞれの航路を進んでいく。
それが、アトリエ・オーサムシップが考える「就労支援×アート」のあり方なのかもしれません。
取材先情報
就労継続支援B型 アトリエ・オーサムシップ
群馬県太田市
公式サイト
https://www.awesomeship.jp/
取材協力
目標工賃達成指導員
ライナーさん
Tsunagi+からのご案内
Tsunagi+では、全国の就労支援施設と企業をつなぎ、利用者さんの得意や希望を生かした仕事づくりに取り組んでいます。
動画編集や画像制作、デザインなどのクリエイティブ業務から、企業のバックオフィス業務まで、それぞれの施設の特色に合わせた仕事づくりをサポートしています。
また、障がい者アートを企業の商品やCSR・SDGs活動などと組み合わせる取り組みも進めています。
就労支援施設への業務依頼や、障がい者アートを活用した企業連携にご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。